買付申込書は、法律で定められた書面ではなく、提出した・書いた・からと、必ず購入しなくてはならないといった法的な強制力があるものではなく、購入の意思表示としての手続きに過ぎません。

不動産の売買は極めて高額になることから、買主の購入意思を確認するために慣例として行われているもので、「購入申込書」とか「買付証明書」とも呼ばれています。実務上違いはないので、ここでは「買付申込書」とします。

買付申込書は不動産売買契約を結ぶ前の、購入の意思表示であるとともに書面による条件交渉の申込でもあります。

希望購入金額など、購入する際の条件(相談事項)もこの書面の中に記載します。

条件に歩み寄り・合意できないとなれば、買主・売主のどちらからも撤回することができ、特にキャンセル費用などもかかりません。

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気に入ったお家が見つかり、購入に向けての最初のステップとなる「買付申込書」の役割や、どのタイミングで書くのか、また、記入の際の注意点を知っておきましょう。

買付申込書にはどんな役割があって、どんなことを書くのでしょうか?

買付申込書の記載事項は、以下の様な構成となっていることが一般的ですが、記入する購入希望条件は、あくまでも買主側の希望にすぎず、記載した条件で売主側と合意できるという訳ではありません。

【 必ず記載される内容 】

① 氏名、住所、書類の作成日
② 購入物件が特定できる情報(物件所在地など)
③ 購入希望金額
④ 手付金の額
⑤ 不動産売買契約予定日(希望日)
⑥ 引き渡し時期(希望日など)
⑦ 住宅ローンの有・無
  
住宅ローン「有」の場合は、借入予定額
⑧ その他の条件・特約
  
その他の条件交渉がある場合は記入します。

この買付申込書の提出から、買付金額を含めた条件交渉がスタートします。ここに記入した購入希望条件が、売主と合意できれば、購入する(できる)ことになります。

この時、複数の購入希望者が競合するような人気物件の場合、ほぼ同一条件であれば買付申込の順に優先権(一番手・二番手)が与えられることもあれば、申込順ではなく住宅ローンの事前審査内諾順とする売主もいます。
一方で、購入希望額が異なる場合、高値を提示した購入希望者が当然のことながら優先されます。

実際に誰に売渡すかを決めるのは売主なので、後から良い条件の買主が現れたら、売買契約を締結するまでは一番に手を挙げたとしても、契約できないこともあるのです‥。

売主からすれば、購入希望価格が一番高い買主を選ぶのは当然で、買付申込書はキャンセルしてもペナルティーがないことや、住宅ローンが通らないなどの理由で後に撤回されることも考えられることから、確実に購入してくれる意思を持っていて、住宅ローンが確実に組める(または資産がある)といった資金の裏付けのある買主を優先します。

住宅ローンで購入する場合は、事前に事前審査を通しておくとより安心ですね。

手付金
基本的には契約と同時に現金で支払います。金額によっては銀行から1度に引き出せなかったり、1度に大金を引き出すのに抵抗がある場合は、事前に少しずつ引き出すなど工夫をして準備してください。
その他の条件・特約 
最後に、特約や要望について記入します。例えば、住宅ローンを利用する場合は「ローン特約」、中古物件の場合は「残置物の撤去」や「解体更地渡し」などを交渉条件にすることがあります。

買付申込書には上記のような具体的な情報を記入する必要がありますので、売主側も購入意思が高い買主だとして契約に向けて準備を進めます。
「とりあえず仮押え‥」のような感覚で、買付申込書を提出するのは控えましょう。

買付申込書は、条件交渉含め本気でこの不動産購入を検討していることを売主へアピールするツールだと考えましょう。

買付申込書を書く時の注意点

不動産売買契約を締結していないので、買付申込書を提出・書いただけであれば、購入をキャンセルしたからといってペナルティーはありません。
でも、注意していただきたいこともあります。

買付申込書はどのタイミングで書くべきなのか?

それは、「このお家を絶対に買うんだ!」と決断した時です。

買付申込(購入申込)の段階でお金は必要ありませんし、キャンセルしてもお金はかかりません。
でも、書くタイミングは「必ず買うんだ」って決断できた時です。

購入にあたり、不安なことがある・確認したいことがある・止めるかもしれない・まだ迷いがある‥等々、少しでも引っ掛かることがあるとすれば、一旦深呼吸。

クリアな状態にしてから買付申込書を書きましょう。

不動産の購入は人生で最も大きなお買い物です。申込後に事情が変わり、申込を撤回せざるを得ないケースは現にあります。
 でも、購入の申込を受けると不動産会社を介して買主・売主の条件交渉は既にスタートし、各方面の関係者が動き出すことも理解しておきましょう。

安易に書いてはいけない買付申込書は、不動産売買契約をするの最初のステップですが、十分に検討し納得した上で、「このお家を買うんだ!」と迷いなく決断できた、その時が書くタイミングだと言えます。

買付申込では物件を押さえたことにはなりません】 

買付申込書を書いて提出しても、正式な不動産売買契約の締結をしない限り、物件を押さえたことにはなりません。
不動産売買契約をして、売主に手付金をお渡しして、初めて物件を確実に押さえたことになります。

これはどの物件でも、どの売主でも同じです。
買うと決断して物件を押さえるには、売買契約の締結しかありませんので、競合するような人気物件の場合は、なるべく早く契約した方がいいかも知れませんね。

正式に不動産売買契約を締結するにあたっては、ほとんどの方は住宅ローン審査が絡みますので、不動産会社・担当者とよく打ち合わせしながら進めていきましょう。

納得していない状態で買付申込書を書くのは、避けるべき】

お客様の中には、「何か書いたけどあれって買付申込書だったのでしょうか?」という方がいます。
「とりあえず書いてください」と急かされ、何の書面かを確認せずに書いたという方も‥
このような、何の説明もせず買付申込書の記入を急かすような不動産会社・担当者にはくれぐれも注意しましょう。

少なくとも、物件や取引条件に納得していない状態で買付申込書を書くことだけは絶対に避けてください。
ペナルティーはないにしても、キャンセルには少なからず嫌な思いもし無駄なエネルギーが必要な上、面倒な状況になる可能性も無きにしも非ず‥

 物件の案内を受けたり商談の中で、書面への記入を求められた時は、何の書面なのかを必ず確認してから記入するようにしましょう。

 買付申込書は本気度をアピールする書面

買付申込書は、購入希望者から売主に対する「この物件を売って欲しい」「〇〇〇〇万円で購入したい」といったお願いでもあります。

一方の売主からすれば、本気で不動産を購入しようと考えている買主以外との条件交渉は、時間の無駄です。
ドタキャンもよくありませんが、複数の物件に申込をしたり、冷やかしで買付申込書を出すのも、売主や不動産会社にとって迷惑なことなのでやめておきましょう。

不動産売買契約書ではありませんので、確かに法的な強制力がない・キャンセルしてもペナルティーのない書面です。しかし、安易にキャンセルすべきものではありません。

「買付申込書」は、買主の購入意思の本気度や、資金の裏付けをアピールすることで、不動産取引が有利になる可能性を含んでいる書面でもあることを、頭の隅に置いていただけると幸いです。

この記事を書いたのは…

イラスト

富岡千賀子
Tomioka Chikako

不動産会社としてお客様の家探しを手伝う傍ら、「大阪府宅地建物取引業協会」が定期的に区役所などで開催する不動産無料相談会の相談員として多くの人の悩みにアドバイスしている。宅地建物取引士ほか、管理業務主任者、公認不動産コンサルティングマスター、賃貸経営管理士など多くの資格を持つ。
T・Mプランニング株式会社代表。